各 位

 昨年12/1に開催されました第2回医学用原子分子・原子核データグループの
議事録をお送りいたします。

原田康雄@昭和大学
[Minutes of the Medical Use Group]
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          シグマ研究委員会・医学用原子分子・原子核データグループ
                    平成15年度 第2回会合議事録(案)

開催日時:平成15年12月1日(月)13:30〜17:00
開催場所:昭和大学「昭和大学病院」17階 第4会議室
出席委員:伊藤 彬(癌研究会)、今堀良夫(京都医科大)、岩波 茂(北里大)、
     上原周三(九大)、遠藤  章(原研)、加藤 洋(都立保健科学大)、
     古林 徹(京大炉)、長谷川智之(北里大)、原田康雄(昭和大)、
     松藤成弘(放医研)、森林健悟(原研)
オブザーバ:岡本浩一(日大)

配布資料:MED-2003-2-0:平成15年度 第1回会合議事録
      MED-2003-2-1:研究会開催案内「放射線・粒子線と物質との相互作用の原子
     分子、生体の基礎過程から医学、産業応用まで」(森林委員)
      MED-2003-2-2:前立腺がんのI-125シード永久刺入線源治療法の発展、および
     AAPM TG64報告書(伊藤委員)
      MED-2003-2-3:小型陽子加速器が開く次世代中性子捕捉療法『第二回 21世紀
     連合シンポジウム−科学技術と人間−』2003東京(古林委員)

議 事:
1.報告事項
1.1 第1回会合以後の状況について。(古林委員)
1.2 本グループの3年間の活動報告書の配布状況について。(遠藤委員)
1.3 来年2月頃に原研・関西研で企画している研究会について。配布資料MED-2003-2-1
(森林委員)
1.4 本年第1回の会合の上原委員の講演資料(OHP)のホームページ公開について。
(原田委員)
1.5 大学における生物や生命に関する物理に沿った学問と教育分野の再編について。
(岡本オブザーバ)

2.前回議事録の承認
 配布資料MED-2003-2-0のとおり承認された。
(http://www.senzoku.showa-u.ac.jp/dent/radiol/Prometheus/Committee/SIGMA_2003
JUL.html)

3.招待講演及び委員報告
3.1 招待講演
 演 題:「シミュレーション計算による放射線DNA損傷の研究」渡辺立子氏(原研)
 放射線生物影響は、DNAに生じる損傷が主要因であるとされている。また、生物影響の
程度は、放射線の種類やエネルギーによって異なり、深刻な生物影響をもたらす修復不
能なDNA損傷の多くが、高LET放射線や飛程末端の低エネルギー電子により生成すること
が先行研究により指摘されてきた。これは、エネルギー付与の微細構造が、修復不能な
損傷生成と密接に関係しているためである。従って、エネルギー付与の構造とDNA損傷の
種類や生成効率との関係を明らかにすることにより、修復不能なDNA損傷の実体解明や異
なる条件での放射線影響の推測が可能となる。しかし、DNAレベルの微小領域のエネルギ
ー分布やDNA損傷分布を実験的に観測することは現状では十分行えるとは言い難い。その
ような背景から、演者はモンテカルロ飛跡構造計算によって得られる微小領域でのエネ
ルギー付与の分布に関する知見をもとに、放射線によるエネルギー付与とDNA損傷につい
て研究を進めてきた。本講演では、低エネルギー電子によるDNA損傷の特徴とメカニズム
を解析するため、実験と直接比較可能なDNA水溶液系における放射線による直接効果及び
間接効果をモデル化しシミュレートした結果から、放射線DNA損傷について、実験結果を
合理的に説明できる可能性が高いことが示された。

3.2 委員報告
 演 題:「前立腺がんのI-125シード永久刺入線源治療法の発展」伊藤委員
 放射線治療は100年の歴史があるが今日でも新しい治療法の開発研究が行われている。
前立腺がんは我が国では10年ほど前には人口10万人あたり年間9人と発生頻度が少なかっ
たが、その後急速に増加している。近年、罹患率が10倍以上我が国より高い米国におい
て、前立腺特異抗原PSAによる早期診断技術の確立とI-125永久刺入線源の利用によって
優れた治療成績が示されるようになった。本報告では、これらの優れた治療結果を可能
にした背景技術と、I-125治療法を(1)適用患者の決定、(2)経直腸超音波撮影と治療計画
、(3)I-125刺入、(4)術後線量分布の解析と治療成績の追跡調査まで、詳細に紹介し、線
源製造から管理まで核データも含めそれらの技術要素の中でAAPM TG64の勧告に基づく医
学物理の課題、および今年7月に開始された我が国への導入における問題点について報告
された。以下のURLで前立腺がんの情報が得られる。
 http://www.ncc.go.jp/jp/ncc-cis/pub/cancer/010230g.html
 http://www.jfcr.or.jp/information/symptom/inf_sym_zenritu.html

 演 題:「小型陽子加速器が開く次世代中性子捕捉療法」古林委員
 中性子捕捉療法はQOLに優れた放射線治療法として知られているが、これまでは主に原
子炉を利用したシステムで治療が行われてきたため、利用できる施設が限られ、また、
制約も多かった。この点で、加速器を用いた次世代システムへの転換を提案している意
味は大きい。中性子の発生反応は7Li(p,n)7Be反応を利用したものが現在の主流となって
いる。予想される加速器システムのうち、ふたつの主な中性子利用法について両者の特
徴や利点を考察している。すなわち、中性子の発生収率の点で優れている2.3MeVの共鳴
反応で中性子を発生させ、減速して利用するものと、収率は落ちるがしきい値近傍の反
応でエネルギーの低い中性子を発生させ、それを直接利用するものである。前者は照射
場の安定性に優れたシステムが実現でき、後者ではより小型化が可能となる。いずれも
病院に併設されることが大前提であるが、照射の自由度が大きく、術中照射にも適した
特性を備えることができる、次世代型のシステムであることが報告された。中性子捕捉
療法などに関するより詳細な情報はhttp://www.antm.or.jp/などに示されている。

4.討議事項
4.1 核データニュースでの本グループの紹介
 事務局から依頼のあった本グループの活動紹介を『核データニュース』(平成16年2月
発行予定)に投稿する件は、グループリーダが対応することとなった。これに関連して
、今年度は本グループの3年間の活動報告書の出版に精力を注いだこともあり、情報発信
が少なくなっているが、依頼される場合も含めて、活動方針に沿って、委員の自主的な
投稿を心がける旨が確認された。また、本グループやシグマ委員会の活動が医学やその
物理工学関係者に十分知られていないという現状認識から、今回出版した本グループの3
年間の活動報告書を、大学の医学物理関係者へ重点的に配布し、本グループの活動を少
しでも知ってもらう努力をした。今後、シグマ委員会としての情報発信のベースにもな
っている『核データニュース』の周知などを通じて、医学分野からの核データニーズや
それに対する要望をくみ上げる窓口を広げる工夫を検討することとした。

4.2 役割分担について
 本年第1回会合の合意に従って、本グループが受け持っている多様な分野への対応を効
率的に行うため、原子分子、原子核、医学物理全般、情報工学、医学の5分野で当面進め
ることになった。分野の分担は事前にメールで確認した各委員の希望を反映させた。な
お、これに関連する議論として、各分野にはどれも個別に長い試行錯誤の歴史があり、
例えば、ある術式に最適な線源の選定にしても、多面的なデータニーズと考察が要求さ
れる。従って、それぞれのタイミングで重要となることを、適格に、かつ地道に取り上
げていくことが肝心であるとの意見が出された。

4.3 来年度の活動計画
 本グループの発足以来20年以上が経過し、医学における原子分子データおよび核デー
タに対する現状のニーズを再調査してみる必要がある時期に来ているとの判断から、デ
ータニーズのアンケ−ト調査を来年度に実施してはとの提案があった(原田委員)。こ
れに関して以下のような意見が出された。本グループ発足当初のデータニーズ調査に対
応するものとして1994年に『医学物理データブック』が出版された。従って、これに替
わる、または、その後のニーズで新しいものは何かという問題設定になるであろう(岩
波委員)。すでにあるデータについての利用を促進することも重要である。インターネ
ット技術の利用がひとつはそれにあたる。存在するデータの紹介も利用ニーズを新たに
開く鍵となり得る(古林委員)。米国のAAPMや英国のIOPなど、われわれのグループと同
じ感心をもっているはずの団体がすでに収集し、公開しているデータ項目についても整
理しておく必要がある。(伊藤委員)
 今後、上記の分担分野を中心にアンケ−ト調査項目や内容について、来年度の第1回会
合を目標に検討をすることとなった。参考資料として、発足当初のアンケ−ト調査報告
書をグループリーダから(pdfファイルなどの形態で)全委員への送付を検討することに
なった。なお、遠藤委員と松藤委員から出されている来年度の招待講演候補も合わせて
検討することとした。森林委員が開催予定の研究会についての議論に関連して、液相の
データやDNAおよびその構成分子のデータに関する要望が出された。

5.その他
 次回会合予定:未定。  


[以上]