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シグマ委員会リアクター積分テストWG
平成12年度第1回会合議事録
日 時 : 2001年2月16日(金) 13:30-17:30
場 所 : 三菱重工業(株)横浜ビル 33階 3305会議室
出席者 : 池田一三、田原義寿(以上三菱)、石川眞(サイクル機構)、宇根崎
信(京大)、亀井孝信(サイクル機構)、三田敏男、瑞慶覧篤 (以上日
立)、丸山博見(山本代理、日本nuclear fuel)、秋江拓志、飯島進、
高野秀機、中野佳洋、佐々敏信(大井川代理)、長家康展、長谷川明
(以上原研)
発表者 : 柴田恵一、中村剛実 (原研)
欠席者 : 岩崎智彦(東北大)、佐治悦郎(東電ソフトウェア)、竹田敏一(大阪大)、
中島健(原研)、金子邦男(総合技術情報機構)
配布資料 :
資料 12-1 リアクター積分テストWG議事録案 (秋江)
資料 12-2 JENDL-3.3の現状 (柴田)
資料 12-3 JENDL-3.3のベンチマーク計算結果 (高野、中川、金子)
資料 12-4 FCA実験によるJENDL-3.3ベンチマークテスト (飯島)
資料 12-5 臨界ベンチマーク計算におけるMVPとMCNPの比較について
(中村、三好)
資料 12-6 JENDL-3.3に基づく標準炉定数ライブラリー概念 (瑞慶覧)
議 題 :
1) 前回議事録の確認 (資料 12-1)
"JENDL-3.2による「常陽」特性解析" の部分で、「燃焼係数のC/E値のばら
つきに関してはランプ化FPを用いたことの影響もあり得るが、」の部分を削
除するよう求められた。この部分は昨年の時点で既に議事録からの削除が要
求されていたが、手違いにより今回再び古い議事録が示された。
また前回会合後の変更として、JENDL-3.3の編集方針のうち非分離共鳴領
域のLSSF=1オプションの採用は見あわせたこと、JENDL-3.3の公開時期は当
時の予定より遅れることの2点が報告された。
2) JENDL-3.3の現状 (資料 12-2)
中重核のNa-23, Cr, Fe, Ni, Er及び主な重核の編集におけるJENDL-3.2か
らの変更点などが説明された。Cr, Feでは共鳴断面積について上限を大幅に
広げ、最新の実験データを用い、Reich-Moore公式を採用した。その結果特
にCr-50の断面積が修正され、1keV付近のCr全断面積の過小評価が改善され
た。天然Feの全断面積はJENDL-3.2では同位体の断面積との間で不整合を生
じていた。JENDL-3.3ではFe天然元素の測定値に合うように、全断面積の微
細構造はすべてFe-56の全断面積に反映させた(Crの場合も同様にCr-52に微
細構造を与えた)。今回新たに評価したErは、測定値が少ないため理論計算
を行なったが、捕獲断面積については東工大の測定データなどを考慮した。
重核については、U-235及びPu-240にSAMMYコードで求めた新しいReich-
Moore型共鳴パラメータを採用、U-233, -235, -238, Pu-239, -240, -241に
ついて各核種の測定値を最小自乗フィッティングした核分裂断面積同時評価、
U-235とPu-239の核分裂スペクトルやU-235即発中性子平均放出数(νp)の再
評価などを行なった。U-235のνpについては、実験値を忠実になぞった評価
をやめ実験値の平均的な値とした。U-235, -238, Pu-239の遅発中性子放出
数(νd)は現在検討中。
今後の予定としては、進行中のベンチマークテスト結果をフィードバック
した後、ファイルの編集、共分散の整備を経て6-7月ころに公開したい。共
分散の整備のために公開を遅らせることは避けたいが、JENDL-3.2で用意さ
れていた核種については整備したい。
U-235断面積の改訂は、特に、keV領域の捕獲断面積に大きな差があり熱中
性子炉積分テストにも影響を及ぼすことが考えられる。JENDL-3.2と-3.3の
差異は、新しい実験値が加わったというよりも共鳴パラメータ解析手法のレ
ベルアップによると考えてよい。JEFやENDFなど他ライブラリ同様SAMMYコー
ドの計算値を用いる事になるため、世界的に共通の共鳴パラメータとなって
しまうが、他に有力な手法のない現状ではやむを得ない面がある。
3) JENDL-3.3のベンチマーク計算結果(資料12-3)
これまで当WGでベンチマークテストに用いてきた各炉心に対して、連続エ
ネルギーモンテカルロコードMVPによる実効増倍率のベンチマークテストを
行なっている。MVP計算での増倍率の統計誤差は0.02%程度である。
JENDL-3.3はJENDL-3.2に比べ0.3-0.5%ほどU燃料熱中性子炉の増倍率を小さ
く評価し、中濃縮U燃料熱中性子炉体系(STACY、TRACY、JRR-4)での増倍率過
大評価傾向を改善した。差異の主な原因はU-235共鳴パラメータの改訂と考
えられ、熱中性子領域の核分裂、捕獲断面積双方とも増倍率を下げる効果が
ある。U-235のν値の影響は小さいが、核分裂スペクトルの改訂は中性子の
もれを増大させる効果がある。Pu燃料熱中性子炉では、JENDL-3.2に比べて
増倍率を若干大きくし、実験値を0.2-0.3%ほど過小評価するがよい結果であ
る。
高速炉ベンチマークでは、U-235及びPu燃料小型炉心の増倍率はJENDL-3.2
と大きな違いがなかった。U-233燃料炉心ではJENDL-3.2による増倍率過大評
価を大きく改善した。これは、ベンチマークテストによる指摘に基づいて、
JENDL-3.3のU-233核分裂断面積が高エネルギー領域でJENDL-3.2より小さく
なったためである。ZPPR-9及びFCA-XVII-1炉心ではJENDL-3.2による増倍率
の過小評価が改善された。FeおよびCrの断面積がkeV以上のエネルギー領域
で大きくなり、中性子のもれが減少する効果が大きかった。
JENDL-3.3はENDF/B-VI.5と比べ、高速炉、熱中性子炉ともに増倍率の予測
精度はよく、おおむね実験値±0.5%の範囲に入る結果が得られた。高速炉系
におけるJENDL-3.3とENDF/B-VI.5の差異の主な原因としてはU-238非弾性散
乱断面積が考えられ、BIGTEN, FLATTOP-Pu, FCA-XVII-1などU反射体やUドラ
イバー領域をもつ炉心では1%dk程度の違いがあった。
今後、反応率比とその分布、ボイドや制御棒の反応度、燃焼計算などのベ
ンチマークを進めるとともに、SRACやJFSのライブラリをJENDL-3.3に基づい
て作成する予定。
熱中性子炉でJENDL-3.2が増倍率を大きく過大評価するのはSTACYやTRACY
など硝酸ウラニル溶液炉心だけではなくJRR-4も同様であるので、U-235濃縮
度の高さが要因であると考えることができる。JENDL-3.2を用いたMISTRALの
解析では、U炉心に比べてPu炉心ではさらに大きく増倍率を過大評価してい
る。MISTRAL実験はTCA-Pu炉心よりPu富化度が高いなどベンチマークテスト
の対象として興味深い。高速炉ベンチマークでのボイド反応度や制御棒の反
応度は、JENDL-3.2を用いて実験値を精度良く予測できていたが、JENDL-3.3
ではFe断面積改訂の影響が予想される。
4) FCA実験によるJENDL-3.3ベンチマークテスト(資料12-4)
常陽MK-II炉心模擬実験FCA X-1(劣化金属Uブランケット)及びX-2(ステン
レス反射体)炉心に対するJENDL-3.3ベンチマークテストをMVPコードを用い
て実施した。評価項目は実効増倍率、スペクトルインデックス、中性子スペ
クトル、核分裂率の空間分布などである。
実効増倍率は、X-1炉心ではJENDL-3.2の過小評価を0.4% dkほど改善した。
一方X-2炉心ではJENDL-3.2がほぼ実験値を再現していたのに対し、JENDL-
3.3では1.5% dkほども増倍率が大きくなり1%以上の過大評価となった。X-2
炉心解析でFe断面積のみをJENDL-3.3からJENDL-3.2に置き換えると増倍率は
JENDL-3.3とJENDL-3.2のほぼ中間となり、Fe断面積の影響が大きいことがわ
かる。
スペクトルインデックスは、X-1炉心ではF9/F5, F8/F5, F7(Np-237核分裂
)/F5いずれの反応率比とも、JENDL-3.3での計算値はJENDL-3.2による値より
3-11%も小さくなり過大評価を改善した。一方、X-2炉心では逆にすべての反
応率比でJENDL-3.2の過小評価傾向から2-10%大きくなった。反応率分布では、
X-2炉心ステンレス反射体内でのJENDL-3.3によるU-235核分裂率が、JENDL-
3.2に比べかなり大きくなった。実験値はJENDL-3.3に近い。
Fe断面積の検討は継続することが重要であり、常陽MK-II炉心などに対す
るベンチマーク計算も至急実施する事が望ましい。スペクトルインデックス
については、JENDL-3.2の計算値に対して疑問な点があるため、計算値のチ
ェックを行なう。
5) 臨界ベンチマーク計算におけるMVPとMCNPの比較について(資料12-5)
ベンチマーク計算において、同じ連続エネルギーモンテカルロコードであ
るMVPとMCNPの計算値間に有意な差が報告されたため、JENDL-3.2に基づくラ
イブラリを使用し、可能な限り同等の計算条件で両コードの計算結果を比較
した。計算対象とした体系は、GODIVA, JEZEBEL, TCA 1.50U,TCA 2.42PU他
の高速炉及び熱中性子炉体系である。
計算の結果、STACYを除く全ての体系でMCNPによる増倍率はMVPの結果より
小さくなり、その差は最大0.2% dk以上(統計誤差0.02%以下)であった。MCNP
を用いて検討した、非分離共鳴領域における自己遮蔽効果の影響は小さかっ
た(0.05%dk以下)。中性子バランスの検討からは、中性子捕獲反応に両コー
ド間で差異が見られ、MCNPの方が捕獲反応を高速炉系では小さく、熱中性子
炉系では逆に大きく評価している。その他、非分離共鳴自己遮蔽効果が中性
子スペクトルや実効捕獲断面積に及ぼす影響も検討し、熱炉におけるU-238
微視的中性子捕獲断面積のMCNPとMVPコードによる違いを、非分離共鳴自己
遮蔽効果の有無はうまく再現することがわかった。
今後、file5のエネルギー分布の入射エネルギーに対する内挿法や熱中性
子散乱モデルの違いを検討する予定である。
MCNPとMVPの違いとして考えられるのは、今回検討された非分離共鳴の他、
熱中性子散乱の取り扱いなどがあり、ポイント断面積の作成法、その際の誤
差についても影響が考えられる。次回までさらに検討を進める。
6) JENDL-3.3に基づく標準炉定数ライブラリ (資料12-6)
「標準炉定数WG」メンバーに対するアンケート調査とその検討結果をまと
め、「次期標準炉定数構想」が紹介された。
7) 今後の予定
JENDL-3.3の6月公開に向けてベンチマークを進める。モンテカルロ計算で
は、実効増倍率以外のベンチマーク、MVPとMCNPの差異の詳細検討、Fe断面
積に的をしぼったベンチマークなどを実施する。Fe断面積については、常陽
MK-II炉心のベンチマーク計算を行なう。モンテカルロコード以外の炉定数
も整備し、ベンチマークテストを実施する。次回WGは、JENDL-3.3公開前に
開催する。