シグマ研究委員会・天体核データ評価WG・2002年度第1回会合議事録 日 時: 2002年9月18日(火) 13:30 - 18:20 場 所: 国立天文台 三鷹キャンパス 南研究棟1階小会議室 出席者(敬称略): 梶野 敏貴(国立天文台)、橘 孝博(早稲田大)、小浦 寛之(理研、講師)、 渡辺 幸信(九大)、河野 俊彦(九大)、大崎 敏郎(東工大)、千葉 敏(原研) 配布資料: COSMO-02-1 : 天体核データ評価ワーキンググループのスコープ(千葉委員) COSMO-02-2 : 天体物理で必要なreaction rateの定義(千葉委員) COSMO-02-3 : 既存の熱核反応率データベースのレビュー(大崎委員) COSMO-02-4 : 捕獲断面積計算コード(河野委員) COSMO-02-5 : 各原子質量公式の解説とKUTY質量公式(小浦講師) COSMO-02-6 : ベータ崩壊強度関数の推定(橘委員) 議 事: 1. 委員自己紹介 2. 議論 2-1. 天体核データ評価ワーキンググループのスコープ 千葉委員が資料 COSMO-02-1及びOHPを用いて、本WG設置に至った経緯及び本WGのスコー プの説明を行い、議論した。従来核データ分野で行われてきた断面積の計算手法は天体核 分野にも応用できるものの、中性子過剰核領域でのパラメータは、KUTY質量公式などで得 られた知識を適用して外挿する必要と可能性がある点で、質量公式のような核構造関係の 成果と核反応データの計算を密接にリンクさせて評価を進めて行く必要があり、本WGメン バーはそれを考慮して選定されたことを説明。このため、本WGではr-process計算に必要な 反応率、原子核質量、崩壊定数などをKUTY質量公式をベースにグローバルに整備すること である、というスコープを示して議論し、了承された。当面は早稲田グループの質量公式 及びβ崩壊、α崩壊、核分裂障壁関連の仕事と、河野氏の断面積計算システムの構築が主 要なターゲットとなる。また、資料COSMO-02-2に基づき、reaction rateの定義、反応率と 逆反応率の関係などが説明された。 2-2 本WGに対する期待、要求 梶野委員がOHPを用いて、天体及び宇宙核物理の専門家の見地から本WGの活動の意義、 期待、要求などを説明。本WGは核データ(工学)、核物理、天文学という異なる分野の 研究者が一同に会するユニークなものであり、核データ及び核物理分野にとっては、本 WGは成果の社会への還元、研究の深化という意義があること、天文学においては最近観 測技術が進み、その成果が注目されていることなどが説明された。また、本WGの成果と なるべきデータベースは、ArnouldグループのNACREなどとやがてはリンクできるような レベルを目指すことが必要である。また、r-processのseed核として重要な78Niを作るま での比較的軽い核の領域では(n,γ)と(γ,n)反応が平衡になっていないので(n,γ)反応率 が重要であり、具体的にどの反応が特に重要であるかを発掘する必要がある。また、この 他には7Li(n,γ)8Li(α,n)11B反応なども重要であることが示された。さらに宇宙論や Brane Cosmologyの観点からの意義、p-processについてはアイソマ−からの(n,γ), (p,γ)反応が重要であるという説明がされた。 2-3既存の熱核反応率データベースのレビュー 大崎委員が資料COSMO-02-3に基づいて、現存する天体核反応率データベースのレビュー を行った。2つの代表的なWWWサイト、ビッグバン及び恒星燃焼計算用のデータセット、 s-process用の主に実験値を中心にした30keV周辺の中性子捕獲反応率データベース、統計 模型計算による反応率データベースについて解説された。NACREのデータセットについて は、T=10^6〜10^7 K でおかしな振る舞いをする場合がある点や、Non-Smoker及びMostコ ードを用いた仕事は本WGとのオーバーラップが大きいことが議論された。 2-4天体核用断面積計算システムの構想 河野委員が資料COSMO-02-4に基づいて、天体核用反応断面積計算システムについての説 明を行った。C言語で書かれたHauser-Feshbach-Moldauer+光学模型計算コードCoHを用い て計算を進める予定であるが、現在捕獲断面積の計算に問題があり、また核分裂断面積を 計算できないので拡張の必要があるとの説明であった。Direct-Semidirect captureにつ いても計算が可能である。また、用いる予定の計算パラメータについての説明もされた。 不安定核の離散準位データ、特に基底状態のスピン、パリティが不明であるが、球形核以 外はKUTYからは提供できないので、千葉委員が原研の宇都野氏に現状を確認することとし た。梶野委員からガンマ線強度関数の立ち上がり近傍の振る舞いに関する最近の成果を考 慮すると、(n,γ)反応断面積も大きく変化するのではないかとの質問があり、河野委員が 調査することとした。本システムでは入射粒子としてはn, p, d, t, 3He, α、放出粒子 としてはさらにγ線が可能であるので、Non-Smoker及びMOSTに対抗するために、中性子 だけでなく、これらの軽粒子入射に対する断面積を整備することとした。 2-5各種質量公式のレビューとKUTY 小浦講師が資料COSMO-02-5及びOHPを用いていろいろな原子質量公式とKUTY質量公式の 解説を行った。KUTYは質量をGross Term+Shell Termに分離し、Shell Termの計算に Strutinskiとは異なる独自のやり方をしており、このために2中性子分離エネルギー等に 不自然な交差が無い点や、overallな実験値との一致はZ,Nが2以上で680.2keVと、他の質 量公式よりも優れていることなどが示された。本質量公式を用いて計算された質量のテー ブルはhttp://csnwww.in2p3.fr/AMDC/theory/Kuty00_m246.datからダウンロード可能であ る。また、現在はfission barrierの計算をr-processパスまで行っていないので今後はそ れを行って、自発核分裂の半減期を計算する予定である。 2-6 ベータ崩壊強度関数の推定 橘委員が資料COSMO-02-6及びOHPを用いて、早稲田グループの開発したベータ崩壊の大 局的理論(Gross Theory, GT)の説明を行った。GTにはFermi及びGamow-Teller遷移の他に、 QRPAでは考慮されていないrank=0,1,2のfirst-forbidden 遷移が含まれている点で優れて いること、天文台コードで用いているKlapdorのテーブルはTamm-Dancoff近似に基づく古 い値であること、KUTY質量公式とconsistentなGTによるベータ崩壊定数はすでに計算 されていること、GTとQRPAによる計算結果と実験値の比較ではGTの方が優れていること等 が示された。また、β-delayed neutron emissionによってr-process分布のギザギザがな まされてなめらかな分布が得られることが示された。 2-7 役割分担と今後の予定 本WGは3年計画であるが、まず1年程度の時間をかけて目に見える成果を出すことを目 指す。そのために、役割分担として 梶野委員:専門家としての助言 河野委員:断面積計算システムの構築と計算 大崎委員:既存データベース調査等 渡辺委員:物理的見地からの助言 橘 委員:質量公式、ベータ崩壊関係定数と反応断面積計算への基礎データ提供 小浦講師:質量公式、ベータ崩壊関係定数と反応断面積計算への基礎データ提供 市原委員:未定(断面積計算) 千葉委員:全体調整、感度解析、断面積計算。質量公式とreaction rateのコードへ の組み込み。R-process計算。 が基本的には了承された。梶野委員、大崎委員はもっと積極的な貢献をする用意がある。 この他の専門家も必要に応じてオブザーバーまたは講師として招聘可能である。また、 原子核質量、崩壊定数、断面積などで実験値がある場合は理論値ではなく実験値を用い ること、必要に応じて実験値と理論値のつなぎを考慮することが基本方針として了承さ れた。反応率はエネルギー及び温度の関数として両方用意すること、温度の関数を解析 式でフィットした結果も用意することとした。超重核については甲南大の太田グループ との協力が望ましいという意見が出された。 今後の予定としては 河野委員:計算システムの整備、γ線強度関数の立ち上がりの振る舞いと(n,γ)断面 積の関係の調査 橘 委員:T1/2(β), T1/2(βn)の作表及び実験値との組み合わせ 小浦講師:fission barrier をr-processパスに届くまで計算する、及びT1/2(fission) の計算 が確認された。 3. 次回予定 (a) 次回は平成14年12月頃 (b) 主な内容は、 i. 宿題事項 河野委員:γ線強度関数の立ち上がりの振る舞いと(n,γ)断面積の関係 千葉委員:不安定核の基底状態のスピン、パリティー決定の可能性 ii. 各自進捗状況 iii. その他