1998年核データ研究会報告


1998年11月19日(木)〜11月20日(金)
於:日本原子力研究所・大講堂


武蔵工業大学工学部
吉田 正
yos@ph.ns.musashi-tech.ac.jp



1.はじめに

 今年度の核データ研究会は,11月19日(木)〜20日(金)の2日間にわたり開催された。 参加者総数は166人で,統計を採り始めた1986年以来の第3位。ここ4,5年,大きな 変動はなく,このあたりの数字に落ちついている。プログラムからわかる通り,核デー タの測定や評価そのものよりも,核データとつながりのある関連分野,あるいは将来な んらかのつながりが出てきてもおかしくない潜在的関連分野のレビューが中心となった。 すでに昨年からこの傾向があったが,今年度は分野の枠を更に押し広げた恰好になり, 医療用加速器や天体核物理も視野に入って来ている。その分,中性子反応断面積の測定 やその評価といった,研究会本来の技術的背景になるべき分野が手薄になったことは, 山野氏がサマリートークで指摘された通りである。


2.講演概要

 研究会はエネルギーシステム研究部の中川部長の開会の辞で開幕し,引き続き, 「加速器施設の現状と進展」のセッションが持たれた。まず,大学でのアクティビティ を中心に,長年にわたって国内の加速器の生み出した成果が報告された。全国的な規模 で横断的に調査された結果であり,修士論文や博士論文の数の年次変化,応用分野の推 移などに関わる興味ある統計が多く含まれている。そしてここでもまた,いま,何らか の新機軸が求められているというメッセージが込められていると理解させて頂いた。 中性子科学研究計画の進展に関しては,これまでの全体計画の総論に加えて,ターゲット 設計やレーザーを利用した巧妙なイオンの荷電交換のアイデアなど,各論でも随所で 具体的な話しが聞けた。続く2件は加速器の医療応用に関するもので, 患部照射に 際してのビームの極めて高精度の制御が興味を引き,また医療機関が個々に設置できる 加速器の設計例が提示された。医療用加速器と核データニーズが直接つながって来るには まだ時間と多くの曲折が必要だというのが実感ではあるが,しかしやはり,関連の強い 分野で何が起きているかを知り,常に高感度状態を保つ努力は今後ますます不可欠の ものとなるだろう。

 天体核物理と核データの親近性については,これまでも折にふれ言及されてきたが, 核データ研究会でまとまった話しが聞けたのはこれが最初であろう。不安定核の ベータ崩壊と中性子捕獲の競争がキーになるという点では,最近の消滅処理の話しと 同根である。違いはベータ安定曲線からどれだけ離れて事が進行するかだけ, といったら言いすぎだろうか。しかし,東工大のペレトロンからは,原子力(FP)にも 天体核物理(元素合成の道筋の核)にも有用なデータが現に採られつつある。 この二つの分野は常に互いの進展に注目し続けるべきであると言えよう。

 国際セッションは3件で,数の上では平成5,6年のピーク時に比べ決して多くない が,聴衆の中にも海外からの参加者は目立ち,国際化は着実に進行している。 中でも韓国での核データ活動の進捗には我々の数年前の予測を大きく超えるものがある。 韓国での核データに関する夏期セミナーも常設化される気配だし,相互交流はぜひとも 強化するべきであろう。日本から同セミナーに参加される方が増えて不思議はないし, シグマ委員会のメールネットワークを通じ,参加に必要な情報は流すべきだろう。

 「放射線損傷と核データ」のセッションでは,JMTRで実際に照射されたサンプルの 損傷評価結果がカドミカットの有無で有意に食い違うというトピックスが紹介され, その原因の一つとして(n,g)反応で生成する欠陥の特殊性が示唆された。詰めて行けば, 評価の基礎として使う核データの確かさも,ガンマ線のスペクトルを含めて, 問題となって来るだろう。引き続く講演「核融合炉における核発熱」では,第一壁や ブランケット等の構造材における核発熱評価の計算法がレビューされ,核データとの 関連が説明された。続いて,GeV陽子で実際に照射されるターゲットの現実,問題点, 期待される進展が紹介された。近年,原子力に係わる広い分野で,スポーレーション 中性子源やそれを利用した加速器ドライブ炉が取り沙汰されているが,こういった構想の 中核にあるターゲットのこのような話が聞けたのは,きわめて啓蒙的でもあり, またインパクトも大きい。

 最後のセッションでは,まずフランスのEOLE臨界集合体で行われた日仏共同実験の 解析結果が報告された。MOX燃料の積分テストとして,きわめて包括的で周到に 計画されたプログラムであり,今後の進展と核データへのフィードバックが待望される。 高速実験炉「常陽」の使用済燃料貯蔵漕にはカロリメータータイプの崩壊熱測定装置が 設置されており,この装置によりこれまでに蓄積されたデータとその解析結果が 報告された。発熱量ばかりでなく,発熱源であるFPの同位体組成データも採られている ことが心強い。最後に,高速臨界集合体であるFCAと熱中性子臨界集合体であるTCAの 最近の成果と今後の計画が報告された。これらの成果を有効に活用し, 新たなチャレンジを提示することも日本の核データにとって極めて重要な課題となろう。


3.おわりに

 冒頭にも記したように,今回の研究会の最大の反省事項は,核データの測定と評価が 口頭発表のセッションで手薄になったことである。これには,JENDL-3.3の評価が いままさに進行中であり,評価計画の提示には遅いし,結果の報告には早すぎる, という時期的背景もある。次回以降,何らかの意味での原点回帰が必要であろう。 しかし一方,今回は36件のポスター発表があり,その中では,いま進行中の JENDL-3.3の評価に直接反映されるような新しい測定結果や評価手法に関する成果も 多数報告されている。本稿ではポスター発表の内容にまで言及できなかったが, 各ポスターの前では活発な議論が行われ,盛況であったことを報告しておきたい。 そして,春までには刊行されるはずのProceedingsをぜひご覧頂きたい。





懇親会の様子











Photo by K. Oyamatsu (Nagoya Univ.)
Edited by T. Fukahori (JAERI)