1999年核データ研究会

- 1999 Symposium on Nuclear Data -


「核データ研究会」実行委員長
(住友原子力工業) 山野 直樹


 国内外の核物理・核データ関連分野で活躍する研究者・技術者が一同に会し, 研究成果を発表する日本原子力研究所(原研)シグマ研究委員会・核データセンター 主催の「1999年核データ研究会」が,1999年11月18日(木)〜19日(金)の2日間, 原研東海研で開催された。今回はアジア・オセアニア諸国との研究交流のため, アジア諸国(中国,韓国,ベトナム,バングラデシュ)から合計6名の研究者を 推薦により招聘した。参加者は157名で,そのうち海外からの参加が10名であり, 国内滞在中の外国人7名を加えると,参加者の1割強が外国人という国際色豊かな 研究会となった。新しい試みとして,後述する Poster Presentation Award (ポスター発表賞)を設けた。

プログラム

 基調講演は,「原子力安全のための核データ活動の必要性と展望」(木村逸郎, 原子力安全システム研究所)と「核融合エネルギー開発における核データニーズ」 (Edward T. Cheng,TSI)の2件の講演が行われた。前者では,原子炉設置申請から 核燃料施設安全審査指針に至るまでの原子力安全に係る核データの利用が報告され, 実用上は問題のない旧版のデータから精度が向上した新しいデータに移行させる 努力は核データ関係者が行う必要があり,臨界事故等にも対応するため, 信頼性のある最新データが何時でも即座に使える配慮や,ハンドブックや 核図表等は電子化することが望ましいと指摘された。後者は,核融合炉を 実用化するためには低コストで環境負荷の低い,競争力のあるエネルギー生産を 行わねばならないとし,核データとして FENDL-2 が国際協力で整備されたことを 紹介し,核融合炉設計においては核データの精度及び不確定性がコストに 直接反映するため,長期に渡る核データの精度向上と国際的に共通する 核データベースが必要であると報告した。

 測定のセッションでは、まず,核種変換(消滅処理)を目的とした 長寿命放射性核種の核データ測定に関する2件の発表があった。また, 中高エネルギー量子利用を目的とした中高エネルギーの核データ測定に関した 3件が発表された。これらの測定の目的は加速器利用,医療,材料,基礎物理, 応用物理,宇宙工学など幅広いものがあり,21世紀に開花するであろう, これらの分野の基礎データとして今後の成果が大いに期待できる。

 国際セッションは5件で,中国,韓国,ベトナム,バングラデシュ,ロシアからの 発表があった。ロシアからは,(n,p), (n,α), (n,2n), (n,3n)反応による励起関数の 系統性が報告された。この系統性は JENDL-3.2 の改訂作業に有用なので, シグマ委員会ではアドホックワーキンググループを設けてデータの比較検討を 現在行っている。

 トピックスでは3件の発表が行われた。「RIビームファクトリー計画」では, 計画の進捗状況と装置が完成した後に予定されている様々な実験計画の紹介があり, 「超重元素合成」では,加速した重イオンを標的核に融合させる,超重元素合成の 最新動向を報告した。「臨界安全ベンチマーク標準問題の整備」では,国際協力で 実施されている ICSBEP (International Criticality Safety Evaluation Project) の現状が報告された。ここではJENDL-3.2<のベンチマーク結果も示され, JENDL-3.3<に向けての再評価データに対する有効なテスト方法となることが 期待される。

 計算手法と評価のセッションでは、まず,原研で開発が進んでいる JAM コードの 進捗状況が報告された。このコードは数 10 GeV までの核子−中間子 輸送計算コードであり,高エネルギー加速器の開発設計には非常に強力な 計算ツールとなる。次に,評価作業が行われている JENDL-3.3 に向けての重核の 評価進捗状況が報告された。シグマ委員会では,重核評価ワーキンググループにおいて JENDL-3.2 の改訂作業が行われており,ベンチマークテストを経て2000年度の完成が 大いに期待される。また,JENDL-FP 崩壊データファイルの報告では,JNDC-FP 崩壊データファイルの改良版である >JENDL-FP 崩壊データファイルの進捗状況が 報告された。

 ポスター発表セッションの発表件数は昨年度の3割増加であり,内容についても 例年より充実しているものが多く見受けられた。内訳は,測定に関するもの 21件,理論と計算に関するもの18件,積分テスト2件,ソフトウェア3件,施設の レビュー2件であった。特記すべきことは,従来の 20 MeV 以下の測定と 中高エネルギー領域の測定の発表件数が拮抗しつつあることで,今後, 中高エネルギー領域の測定データの増加傾向が予想される。今回は核データの 積分テストや原子炉への適用に関する発表は少なかったが,JENDL-3.3 が 完成するまでの嵐の前の静けさといった感がある。

ポスター発表賞

 今回の核データ研究会は,第1回目の核データセミナー(1978年)から数えると 22回目に当たる。実行委員会ではマンネリ化を避け,参加者に常に魅力ある 研究会とするため,ポスター発表賞を設けた。核データ研究分野において, 測定値や評価値の数値やその傾向を細かく議論することは特に重要であり, その意味で,ポスター発表は核データ分野に最適な発表形式である。 核データ研究会ではポスター発表は口頭発表と同じ重要性を持つものと 認識されている。実行委員会で議論のうえ決定した選考基準と選考方法を 第1表に示す。選考基準を明確にして,対象者をポスター発表者全員とすることで, 若手から老練な研究者に至るまで魅力ある賞となるように配慮した。第1回目の ポスター発表賞は,原研の前川藤夫氏が受賞され,ポスター発表賞の授賞式で 実行委員長より賞状と記念品が贈呈された。

第1表 ポスター発表賞の選考基準と選考方法

Poster Presentation Award

Selection Criteria

Selection Rule

研究の目的・手順・結論が明瞭に示されていること

各項目に対して 20 点を配点し、各人 100 点満点とする

研究の特徴・創意が明確に示されていること

80点以上得点した人で最高得点を獲得した1名を受賞者とする

ポスター発表としての工夫がなされていること

審査は核データ研究会実行委員会委員が行う

発表に熱意があること

ポスター賞授賞発表会場にいること

会場並びに懇親会の雰囲気

 今回の研究会は昨年6月に完成した原研東海研の先端基礎研究交流棟の 会議室において行われたので,照明や空調も快適であり,また広さも適当であった。 ポスター発表会場は口頭発表会場を出るとすぐ隣にあり,非常にスムースに オーラルセッションからポスターセッションに移行できた。懇親会は18日の夜, 阿漕ヶ浦倶楽部で行われ,昨年より7名多い67名の参加で盛会であった。学生と OBには懇親会費の特別割引があるため,学生の参加が16名と多いのが本研究会の 懇親会の特徴である。第一線の研究者と懇談できることは学生にとっても 良い刺激になると思われるし,若者に核データ分野に魅力を持ってもらうことは さらに重要なことである。

おわりに

 今回のプログラムは,核データ生産者に興味あるテーマである測定と評価を 中心とした口頭発表を設定した。核データの測定や評価に係る研究者・技術者には, 今後の研究動向を見極める上で大いに参考になったと思われる。ただ,昨年と比べ 応用や利用に関する直接の話題が少なかったためか,民間機関からの参加者が 若干減少した。核データ分野の研究者・技術者にとって,常に利用者に興味を 持ってもらうことが重要であり,そのための情報を交換する場として本研究会の 果たすべき役割は今後もますます重要になると考えられる。

 日本を含めた先進国においては既にグローバル化されている核データ分野であるが, 国内利用者のみならず,アジア地域諸国の協力関係を含めた利用者との連携において 一層の努力が必要と思われる。本研究会の報文集は原研報告書 JAERI-Conf シリーズで 毎年英文で発行され,外国人研究者による引用頻度も高い。今回の研究会では, 外国人が参加者の1割強を占めたこともあり,本研究会も International Symposium として mind-set を切り替える時期が間近に迫っていると感じられた。

(2000年1月20日記)