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各 位

 今年7/9に開催されました第1回医学用原子分子・原子核データWG
の議事録が承認されましたのでお送りいたします。

原田康雄@昭和大学
[Minutes of the Medical Use Group]
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           シグマ研究委員会・医学用原子分子・原子核データWG 
                     平成13年度 第1回会合議事録

開催日時:平成13年7月9日(月)13:00〜18:00
開催場所:昭和大学「昭和大学病院」17階 第5会議室
出席委員:伊藤 彬(癌研究会)、今堀良夫(京都医科大)、岩波 茂(北里大)、
          岡本浩一(日大)、尾川浩一(法政大)、加藤 洋(都立保健科学大)、
          古林 徹(京大炉)、原田康雄(昭和大)、松藤成弘(放医研)、山口恭弘
    (原研)
欠席:上原周三(九大)
招待講演者:波戸芳仁(高エネ研)

配布資料:
MED-2001-1-0:平成12年度 第2回会合議事録(案)
MED-2001-1-1:EGS4における低エネルギー光子の取扱いと原子・分子データの評価
        (波戸)
MED-2001-1-2:核医学におけるアイソトープ利用(尾川)

議 事:
1.報告事項
1.1  前回議事録の承認
 資料MED-2001-1-0(『核データニュース』通巻105号No.69(2001/6) p.109-111に掲
載)の通り承認された。

1.2 経過報告
 古林委員より、前回会合以降の経過報告がなされた。今年3月のシグマ運営委員会 
で打診を受けていた原子力学会誌の連載講座「核データ」の第3回目「核データの測 
定と応用」への投稿依頼が5月11日にあった。本WGに関係した「 4.医療・診 
断・核医学・粒子線がん治療など」の部分は、メールで相談した方針に従って古林・ 
尾川で5月末までに対応した。また、山口委員にも、「5.保健物理(外部・内部被 
曝)と核データ」のテーマで原子力学会から個別に依頼があり対応がなされた。原子 
力学会誌7月号で出版される予定である。
 今年は、核データの国際会議「ND2001」が10月7日より筑波で開かれる関係から 
「核データ研究会」は予定されていない。ND2001では、プログラム委員や医学応用関 
係のセッションの座長が本WG委員からも選ばれている。ND2001は核データを中心に 
した国際会議であるが、医学利用等で重要な原子分子データに関する演題もあり、応 
用面に関して幅広く最新の話題が討議される予定。「核データ」に加えて「原子分子 
データ」が医学利用で重要であることをアピールできる機会と思われる。

1.3 委員報告と招待講演
 昨年度の新委員(松藤)及び今年度の新委員(今堀、加藤)から、自己紹介を兼ね 
て、従来取り組んできた研究内容を発表して戴き、本WGの今後の活動の参考情報と 
した。次に、尾川委員から、定期的な情報発信の一環として、『核データニュース』 
へ投稿予定の「核医学」に関する原稿について報告を受け討論し、予定通り投稿する 
方向で進めることになった。これらの議論から、近年、医学利用の新しい核種や手法 
が欧米を中心に導入されており、日本でも薬事の認可がおりているものもあることが 
明らかになった。これに関連して、次回会合で伊藤委員に話題提供を御願いすること 
となった。
 続いて、招待講演として、波戸芳仁氏から、「EGS4における低エネルギー光子の取 
り扱いと原子分子データの評価」の講演を戴いた。「核データ」とともに本WGの中心
課題である「原子・分子データ」に関して、EGS4が重要な評価コードであることと、 
及び特に低エネルギー側でのコードの改良や関連するデータ整備の状況を確認するこ 
とができた。以下に各講演の概要を示す。

1)「EGS4における低エネルギー光子の取り扱いと原子分子データの評価」波戸芳仁 
氏招待講演[MED-2001-1-1]
 演者らの単色化放射光散乱実験と他の研究者による原子衝突実験によって得た結
果をもとに、光子散乱については、(1)散乱光子の直線偏光、(2)コンプトン散乱に
おける束縛電子と電子の運動量分布によるドップラー広がりの効果、(3)レイリー散
乱における干渉効果、また光電効果とその緩和過程に関しては、(4)蛍光X線(特に
L-X線)の輻射過程とオージェ電子放出の無輻射過程、および、(5)電子衝突電離の
過程、について、干渉効果を除きシミュレーションできるようにEGS4(電子γ線光
子シャワー輸送コード version 4)に組み込んで計算できるように改良をした。
 改良されたEGS4-KEK(高エネルギー加速器研究機構拡張)コードにより、直線偏 
光、束縛、ドップラー広がり、Zが70以上の強いL-X線(L-α、β、γ)、K殻電子衝 
突電離のシミュレーションについては、計算と測定でコンプトン散乱は数%以内で、 
レイリー散乱は30%以内、蛍光X線の輻射ではK-X線と鉛の強いL-X線は数%以内、弱い 
L-X線は50%以内で一致するまでになった。
 以上の研究を通じて、今後EGS5へのコードの改良に向けては、以下の原子・分子
データが高精度で整備または研究されることが重要と思われる。レイリー散乱への
干渉の影響、弱いL-X線放出比、Zが70以下のL殻蛍光収量、Zが20以上30以下でのK
殻蛍光収量、オージェ電子の測定との系統的比較、K殻電子衝突電離断面積である。
これらのデータが必要とするエネルギー領域は当面の優先順位で考えると、光子に
ついては1 keVないし0.1 keVまで、電子についてはさらに低いエネルギーとなる。
 トピックスとしては、計算精度が向上した結果、計算とは異なる実験結果が新た
に得られたことである。すなわち、グラファイトのコンプトン反跳電子のエネルギ
ースペクトルにπ電子と思われる構造が観測されたことや、これまで断面積が小さ
くあまり問題とされていなかったラマン散乱が、吸収端近傍のエネルギーでは共鳴
効果で顕著に観測されることである。上に述べたレイリー散乱の干渉効果などを含
めて、どのような物質モデルや対象をコードが取り扱うか立ち入った議論が必要な
段階に来ていると思われる。

2)「治療用高エネルギー重粒子線の線質について」松藤成弘委員
 放医研ではCビームを用いた重粒子線によるがん治療が先月までに1000例試行され 
たが、適応部位とより良い治療技術の確立を目ざして努力が続けられている。現在は 
眼、頭頸部をはじめ多くの部位で臨床試験が行われている。
 重粒子線治療では、入射粒子が患者体内でのフラグメント反応により崩壊し、治療 
ビームは様々な種類のフラグメント粒子が混入したものとなる。従って治療技術の高 
精度化のためには、フラグメント粒子のもたらす生物学的効果の正確な評価と、その 
基となる線質の測定精度の向上が不可欠である。現在治療計画に利用している核反応 
シミュレーションコードでは核反応断面積について半経験式が用いられており、その 
精度の検証が問題となっている。以上のことから入射核フラグメントの核種別フルエ 
ンスとLET分布を測定し、CとNeビームを中心に計算コードとの比較を通じてコードの 
評価をおこなった。
 核種別フルエンスの測定では、人体模擬材であるPMMAを透過した粒子を、BGO+NE102
シンチレータのΔE-E測定で核種同定しZ=1以上のフルエンスを計測する一方、飛跡検
出器CR-39による測定を行い、Z=3以上の粒子についてフルエンスを測定した。得られ
た結果について計算コードとの比較を行った。また、P-10ガスを用いた平行平板LET
カウンターをΔE-E検出器に組み合わせて核種別LET分布を測定し、電離箱を用いた吸
収線量測定との比較も行った。その結果、重いフラグメントについては実測間でも計
算でもよい一致をみた。しかし、Z=1,2のフルエンスは計算値が過小評価 となり、Z=
4では過大評価となった。
 生物学的線量の効果はLET分布から解明するアプローチを試みた。V79細胞をターゲ 
ットとした、生残曲線のシミュレーションでは、線量平均LETを持つ入射イオンのみ 
と近似しても、低LETではよくモデル化できることが分かった。今後、標的核フラグ 
メントの影響も含めたより正確な生物学的線量評価或いはスポットビームを用いたス 
キャニング照射法を行うためにはペンシルビームの周りの空間についての情報を得る 
必要がある。それをシミュレーションするためには、空間とエネルギーに関する核種 
放出二重微分断面積などの核データが不可欠であるが、現在のところ利用できるデー 
タがないので、他の施設との協力も得て測定して行く計画である。

3)「サイクロトロン・原子炉の医学における活用経験」今堀良夫委員
 日本ではまだ普及があまり進んでいないポジトロンCT(PET)の臨床上の利点を症例 
あげて説明し、さらに、PETと熱中性子捕捉療法を組み合わせて、効果的な治療を行 
った脳腫瘍の症例を紹介した。演者は、第一線の脳神経外科医であるが、自らの経験 
を通してこれらの医療におけるサイクロトロンを用いた放射性医薬品の製造技術や原 
子炉からの中性子利用に関して物理・化学・工学者とのチーム医療とそれらを支える 
核データなどの基礎データが重要であることを強調した。
 フェニルアラニンのB-10化合物にF-18を標識して、PETによって同定された脳腫瘍 
に、腫瘍細胞一個単位で生残を制御できる熱中性子捕捉療法を行い、他の術式では困 
難な脳腫瘍の治療に成功した例や、FDGを用いたアルツハイマー病の診断、同じく 
FDG-PET検査では従来のGaシンチグラフィよりも優れ、直径7mmまでの肺ガンを検出す 
ることができること、また全身のガンの発見にも優れた威力を発揮する症例が多数供 
覧された。
 我が国では現在35台のPET装置が導入され、サイクロトロンを有する施設は29カ所 
あり、1999年には全国で11000件の検査がおこなわれた。米国の66施設123台に比較す 
るとまだまだ普及はこれからであるが、既に米国では年間93500件実施されており近 
年その数は急増する勢いである。 その理由は、最新の螺旋CTやMRを併用しても通常 
のガンの成人検査では発見率が、大腸ガン0.15%、胃ガン0.14%、乳ガン0.09%、子宮 
ガン0.07%、肺ガン0.05%、その他の検査を含めても全ガンでの発見率が0.79%である 
のに対して、山中湖クリニックの5年間の資料ではPET単独でも1.22%、PET併用では 
2.06%と断然高く優れているためである。しかも、検査に要する時間や患者の負担は 
格段に少なく、低リスクである。ただし、現在のところ病院へのサイクロトロン導入 
や放射性医薬品製造機器とその運転要員を含めて費用が高額となる点が問題であり、 
我が国での21世紀医療は難病の克服、予防医学、ITの活用と共に、医療供給体制の再 
構築が課題となる。

4)「ヒト臓器中の元素分析」加藤 洋委員
 ヒトの元素構成や必須性あるいは毒性、疾病との関連、重金属の環境汚染問題など 
の観点から正常日本人男性臓器中の元素存在量を定量している。国際放射線防護委員 
会は標準人間を構想して、その構成元素割合を推定し1975年に公表している。
 分析試料は滋賀医科大学法医学教室で解剖され、死後経過時間が短く、重金属に生 
前暴露されず、かつ病院等で重金属を含む薬剤投与を受けていないと判断された男性 
57例の脳、甲状腺、肺、心臓、筋肉、肝臓、腎臓、膵臓、脾臓の9臓器である。
 分析方法は中性子放射化分析(INAA)および荷電粒子励起X線分析(PIXE)で定量 
した。このとき標準比較試料としてINAAはOrchard leaves、Bovine liver、Horse 
kidneyを、PIXEは原子吸光用インジウム標準溶液を用いた。
 INAA法で約20元素、PIXE法で約15元素が各臓器で検出された。Al、Mg、Sc、Sbは土 
壌に起因する元素であり、肺に高い濃度で検出された。各臓器における元素分布型は 
Br、Cl、K、Na、Rb、Se、Znは正規分布を示し、必須性がうかがえる。Co、Cs、Cu、 
Mgは臓器により歪んだ型を示した。肝臓、腎臓、肺におけるAs、Cd、Sbは対数分布を 
示し、非必須性を示唆していると考えられる。またこれら非必須性元素は年齢と強い 
正の相関があり、あまり代謝されず臓器中に長期にわたり蓄積されていくことがみら 
れる。年齢との相関でRbは負の相関を示すと他の文献にはあるが、我々の結果では明 
らかに正の相関を示していた。さらに元素間に強い相関がみられ、特にCd−Znはその 
定量値に注意が必要である。
 国際放射線防護委員会は標準人間の構成元素割合を推定しているが、このデータは 
欧米人を対象としており、分析法の感度や精度、検体の妥当性などに、また生活環 
境、生活習慣、食習慣の違いが分析値の偏りを示していると考えられ、CdやHgの値は 
大きく異なっている。

5)「核医学におけるアイソトープ利用」尾川浩一委員[MED-2001-1-2]
http://www.senzoku.showa-u.ac.jp/dent/radiol/Prometheus/Committee/SIGMA/
report-MED-2001-1-2.pdf


2.討議事項
2.1 今年度の活動計画、役割分担などに関する意見交換
 今年3月のシグマ運営委員会で、昨年から開設した本WGのWebページと、e-mailを 
利用した活動に一定の評価を受けていること、また、新委員の自己紹介を兼ねた報告 
から委員の専門分野や得意な領域について相互理解が深まったことを踏まえて、今年 
度の活動内容について検討した。事前にmailで配付したグループリーダーの活動に関 
する提案を叩き台として議論を進めた。

2.2 活動に関する提案と意見
(提案1) 委員個人が得意な分野でそれぞれテーマを選び、そのテーマを複数の委員で 
取り組む。各委員は主テーマを一つ、サブテーマを複数もって活動する。委員間の交 
流促進や、WGとしての定期的な情報発信の準備などにも活用できる。
(提案2) 会合への委員の全員出席が難しいことを想定し、会合の前後に、メールで委 
員間の意志疎通を図る期間を限定して設ける。期間としては、会合の開催日の前後そ 
れぞれ1ヶ月程度とする。特に会合後は、議事録を作成する期間でもあり、この期間 
に出された意見等も議事録に反映させる。期間を限定することで作業効率を高め、年 
2回の会合を機能的に運用することにもつながることが期待できる。(提案3) 会合で 
発表する委員は、当日配布予定のものを、事前にメールで全委員に配布することを原 
則とする。時間の有効利用と討論の密度を高めることが期待できる。

これに対して委員からは次の意見が出された。
1)新たにサブグループを作らないで、従来通りまとまったものから出していけばい 
いのではないか。その情報発信の方法にはいろんな手段が利用できる。具体的には 
『核データニュース』、「核データ研究会」、Mailing List(ML)、Webなどがある。 
これらを利用して、核データセンターや運営委員会に積極的に意見を出していくべき 
である。自分達のニーズを強く打ち出していくことによってその方面からの協力も得 
やすくなる。
2)WebやMLを利用した活動に経験が浅いので模索している段階だが、すでに山口委員 
などが、活用法のよい見本を示されていると思う。研究発表した論文や講演概要も積 
極的に本WGのMLにabstractや内容紹介をされ、WG委員に対して論文請求のリクエスト 
にも応じて、委員相互のコミュニケーションに活用している。委員間の相互理解を密 
にして自分達のニーズを集約していくのは賛成である。Webにuploadする基準など実 
施方法は、公開の範囲との関係で今後検討していく必要を感じている。
3)今日のEGS4の内容などは公開が可能なデータならOHPのまま、JAERI memo等に載せ 
てもよいと思う。最近は核データもEXFOR(exchange format)だけでなく、図表・写真 
データ等も必要であるという意見があり、形式にあまりこだわらなくてもよいと思 
う。
4)今日のようないわばmini-symposiumのような発表とWGとしての集約をする 
discussionの機会を両方とも、設ける必要がある。
5)本WGの活動として、アプリケーションと基礎的内容を取り上げていく必要があ 
る。両者は"need"と"seed"の関係にあり、これらを同時に見ることのできる立場が他 
のWGにはない本WGの特長であり、これを生かした活動となると思われる。
6)委員になったばかりなので、しばらくは、委員会の性格付けを見守りたい。
7)医師の立場から、本委員会に貢献できる意見などを出していければと考えてい 
る。その方向で貢献できると思う。
8)重イオンの核データに対して、他施設からの協力も得たいので本WGを通じて要求 
を出していきたいと考えている。

 以上のような意見交換から、(提案1)のサブグループをつくることは今後、テーマ 
を探るなかで検討を続けていくこととなった。なお、(提案2)及び(提案3)について 
は、特に反対の意見はなかった。

 岡本委員より、本WGからのまとまったレポートを作成する準備を始めることにつ 
いて、原研のレポートを念頭に置いて今後準備していくことにしてはとの提案がメー 
ルであり、その方向で進めることとなった。

2.3 その他
 次回の会合は、今年度の招待講演予定者の井口道生氏の来日予定を考慮しながら、 
可能で有れば対応し、そうならない場合は当初の予定である12月頃とする。

==
[以上]