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各 位
昨年11/1に開催されました第2回医学用原子分子・原子核データWG
の議事録をお送りいたします。
原田康雄@昭和大学
[Minutes of the Medical Use Group]
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シグマ研究委員会・医学用原子分子・原子核データWG
平成13年度 第2回会合議事録
開催日時:平成13年11月1日(木)13:00〜17:00
開催場所:昭和大学「昭和大学病院」17階 第2会議室
出席委員:伊藤 彬(癌研究会)、今堀良夫(京都医科大)、岩波 茂(北里大)、
上原周三(九大)、岡本浩一(日大)、古林 徹(京大炉)、原田康雄
(昭和大)、松藤成弘(放医研)
欠席:尾川浩一(法政大)、加藤 洋(都立保健科学大)、山口恭弘(原研)
招待講演者:井口道生(アルゴンヌ研)
オブザーバー:市原 晃(原研)
配布資料:
MED-2001-2-0:平成13年度 第1回会合議事録(案)
MED-2001-2-1:Fano先生を悼む(井口)[『放射線化学』第72号(2001) pp.64-65]
MED-2001-2-2:医学利用における最近の核種や手法について(伊藤)[別紙]
議 事:
1.報告事項
1.1 前回議事録の承認
資料MED-2001-2-0(http://www.senzoku.showa-u.ac.jp/dent/radiol/Prometheus/
Committee/SIGMA_2001JUL.htmlに掲載)の通り承認された。
1.2 経過報告
古林WGリーダより、前回会合以降の経過報告がなされた。その前に、原子分子データ
委員会で活躍されていた市原晃氏(原研核データセンター)を本会合のオブザーバーとし
て参加いただいた旨の紹介があった。原子分子データ委員会で得られた成果が本WGの活
動に生かせるのではとの考えからとのことであった。
1.3 招待講演と委員報告
1.3.1 招待講演者:井口道生氏(アルゴンヌ研)
演題:「Ugo Fanoの生涯と仕事」
今年2月13日に91歳でなくなったイタリア出身のUgo Fano(1912-2001) の生涯と仕事に
ついて、長年仕事上の同僚として、また、親しい友人でもあった井口氏から、逸話などを
含めた紹介があった。演者が1962年に初めてFanoに出会ったエピソードに始まり、晩年の
べローナでの別荘での演者と歓談中のショットを示しながらの長い交際の中で知ったFano
の多彩な人柄など物理学者Fano以外の側面も紹介し、別荘の由緒に象徴されるFanoの恵ま
れた生活の背景、抽象的な思考を嫌い常に具体的な物理現象から新鮮な問題を発見する
Fano独的な研究スタイルと興味の対象、Fermi譲りの学生の教育法など、生前親しんだ人
のみが知り得たさまざまな人間Funoの側面によってFunoの全体像を紹介した貴重な講演
であった。放射線研究の草分け的な一人の物理学者の話を通じて、放射線研究の基本的な
事項について解説していただいたが、詳細な説明は、『放射線化学』第72号(2001)64-65
ページを参照していただくとして、以下に概要を紹介する。
Ugo Fano はFermiとHeisenbergに学び、当時の著明な欧州の物理学者とも親交があり、
申し分のない環境で育ったが、ファシズムの台頭により米国に渡って、最初放射線遺伝学
の分野で仕事をした。戦後はNBSに入ってL.S.Taylorのグループの中で、約20年間活躍し、
放射線物理と原子・分子、および凝縮相の物理で著明な業績を残した。それらは、気体の
電離収量(W値)の理論(1947)、Fano因子の導入(1947)、L.V.Spencer & M.J.Bergerらと
光子や荷電粒子の輸送計算(1950-)、空洞理論におけるFanoの定理(1954)、R.P.Maddenら
とシンクロトロン放射による分光学研究(1960-)などである。1966年にシカゴ大学に移っ
てからは、原子・分子および固体の分光と衝突現象に関する基礎的研究を行い、約30人の
学生に博士号をとらせ、後人に育成にも努め、1995年のFermi Awardを始め数々の賞を授
かった。これらの研究の中で、荷電粒子といろいろな相の物質との相互作用、取り分け阻
止能の系統的研究や、光吸収スペクトルつまり(双極子)振動子強度の分布を励起エネル
ギーの全領域に渡って調べることの重要性の指摘など、我々にとって今日の原子・分子デ
ータ研究の礎石を敷いた功績は大きい。
1.3.2 委員報告
「医学利用における最近の核種や手法について−血管内小線源照射による血管再狭窄の予
防治療−」伊藤 彬委員
ガンと脳梗塞、心臓病は成人の死亡3大疾患であって、我が国でも平成10年には後2者
は前者の約半分で、10万人あたり、約100人の年間死亡率である。この内、心臓の血管内
壁にコレステロール等で狭窄が起こることによる心臓病は近年、X線透視下で血管にカテー
テルを挿入するInterVentional Radiology(IVR)の手法によって有効に治療が行われるよ
うになった。この方法は、カテーテルによって血管の詰まりを取り除いたり、風船を挿入
して、狭くなった血管を拡張したり、また治療を施した部位にステントと呼ばれるステン
レスの網状の円筒を残して狭窄の再発防止をするものである。しかしながら、これらの処
置によっても一旦は直った心臓病が再発することは非常に多いので、その再発防止が早急
な課題となっていた。最近注目されているのが、血管内を小線源で照射することにより、
再発が著しく防止されるとういう技術(Intravascular Brachytherapy, IVBT)である。
先にこの技術は、海外において1990年代よりブタの動脈を用いて有効な線量(およそ十
数Gy)や、照射対象とすべき血管の構造部位(外壁まで含むべき)、その線量分布(ステ
ントより広い範囲が必要)に適した線源等について研究がなされて、1999年には、患者の
無作為抽出試験により、照射を行わなかった群での再発率が半分を超えるのに対して、照
射群では16%程度に押さえられてその有効性が証明された。すでに海外市場には製品もある
が、残念なことに我が国では、法律改正を含む、依然とし残された規制の問題等が未解決
のことあり、必ずしもスムースな導入が進んでいない。年間数十万人がこれらの治療の対
象になり得る今日の我が国で、今後急速にこの技術が普及することが期待されている。本
WGとの関係では、IVBTにより適した核種、線源の開発に必要な核データが求められている
ことがある。
本術式の応用が脳血管についても可能となれば、治療の対象は2倍に増え大いに期待さ
れる。しかし、脳外科領域ではそのまま使用できない術式であろうから、今後脳外科医と
放射線科医や医学物理士とが共同した研究が必要と思われる。
2.討議事項
2.1 核データニュースへの投稿について
本WGでの活動について定期的な情報発信として、一昨年以来『核データニュース』、
「核データ研究会」、「ND2001」および本WGのWebページなどを通じて積極的に行ってきた。
この一環として、本年度第一回会合の「波戸芳仁氏の招待講演」の内容を核データニュー
スへ投稿依頼することについて、あらかじめメールと郵送によって各委員に配布された投
稿案を検討した。その結果、講演者の考えを尊重することを基本に、各委員から出された
コメントを参考に来年1月号に投稿をお願いすることになった。次に、松藤委員が近々長
期の留学をする予定であることから、出発前に本年第一回会合での話をベースに核データ
ニュースへの投稿原稿を準備することになった。
2.2 今後の活動計画などに関する意見交換
昨年度より行ってきた活動のスタイルについては、運営委員会でも評価を戴いているの
で続行する。また、会合は年2回程度が限度なので、年間を通じての活動にメリハリをつ
けるため、会合の前後1ヶ月を活動の集中期間と定めて、e-mail等を活用した討議の期間
とする。本委員会の意義について定期的な討議をする。それに関連して、本WGがシグマ委
員会の中で他には求められないユニークな委員会である点について内外の評価を求めてい
く努力を続ける。来年度で現体制が3年目となることから、本委員会が来年度も存続する
として、まとまった報告書を原研の報告書などを活用して作成する。
これに関連して出された意見の主なものは以下の通りである。
(1) 医学利用での具体的な要求精度やデータニーズがはっきり見えにくいが、核融合のた
めの原子分子データ活動の成果で本WGの活動に活かす道をさぐってはどうか。
(2) PETでは、511keVの陽電子が消滅するまで、組織中で2mmの飛程があるため、これ以上
の分解能が望めないと考えられている。医学と物理の枠を超えた学際的な討議から新アイ
デアを生み出すような場が欲しい。
(3) 新しい医療機器の提案も含めて、物理屋から問題を出していく能動的な道も重要であ
る。医療用の線源や検出器に関するデータは紛れもなく重要である。現在のところ、極め
て低いエネルギ−に関するデータは全て疑わしく、十分な検討が望まれる。
(4) 医療に関係する分野は広いが、各分野で既に常識になっていることや、定説になって
いることに再度光を当て、新しい「不思議」を見いだし、多くの人に伝えることも本WGの
役目の一つであり活性化につながると思う。
2.3 その他
次回の会合は未定。
[以上]