Previous meeting (2003/01/29)
シグマ研究委員会・天体核データ評価WG・2003年度第1回会合議事録
日 時 :2003年 7月10日(木) 13:30 - 17:30
場 所 :日本SGI株式会社(恵比寿ガーデンプレイス31階)会議室
出席者(敬称略、順不同): 尾立 晋祥(東京理科大)、橘 孝博(早稲田大)、
渡辺 幸信(九大)、小浦 寛之(理研)、大崎 敏郎(東工大)、
折戸 学(東工大)、五十木 秀一(日本SGI)、市川 隆敏、市原 晃、
千葉 敏(原研)
配布資料:
COSMO-03-1 : 原子質量公式関連の進捗状況(小浦講師)
COSMO-03-2 : 原研関連の進捗状況(千葉委員)
COSMO-03-3 : 天体核断面積計算の為のコードシステム構築進捗状況(河野オブザーバー)
COSMO-03-4 : 少数多体系反応理論の元素合成への応用(五十木講師)
議事 :
1. 前回議事録確認
前回議事録案が若干の修正の後承認された。
2. 天体物理に必要な核データに関する講演
2-1. 多次元ランジュバン方程式による重アクチノイド領域での核分裂モード(市川講師)
市川講師がパワーポイントを用いて、アクチノイド領域での核分裂によるフラグメント
質量分布の実験的系統性についての説明を行い、続いてランジュバン方程式を数値的に解
く事による270Sgに対する計算結果の説明を行った。実験的には、低励起エネルギーから
の核分裂では、軽いアクチノイド領域では非対称分裂が中心であるが、Fm付近では対称分
裂が優位になるようなモードが現れること等が説明された。ただし、Fmより思い核では実
験の情報も不確かである。また270Sgに対する計算では、変形パラメータ空間での原子核
の形状の時間発展を3次元ランジュバン方程式に基づいて計算するが、その際集団座標
(変形を表すパラメータ)をブラウン粒子とみなし、核子運動をランダム力として取り扱
う。ランダム力のパラメータはアインシュタインの関係式からユニークに決定されるが、
慣性質量テンソルや摩擦係数についてはモデル依存性がある。質量分布は基本的にはポテ
ンシャルエネルギーサーフェスによって決定されるが、ランジュバン方程式で記述される
動的効果も重要であることが説明された。また、現在は両フラグメントの変形度を等しい
と置いているが、これが現在の計算における大きな制約である。
2-2. 少数多体系反応理論の元素合成への応用(五十木講師)
五十木講師がパワーポイントとCOSMO-03-4を用いて少数多体系核反応の理論と、p-3He
系への適用例について説明した。軽い系ではn, p, d, t, 3He, 4Heまでの任意の3個まで
の組み合わせの関与する反応をFaddeev理論で、4個まではFaddeev-Yakubovsky理論により
計算することが可能である。そのためにまず2クラスター間の相互作用を決定する必要が
あり、そのために用いられる共鳴群の方法(RGM)、直行条件模型(OCM)、さらにはEST展開
の方法の説明が行われた。また、Faddeev理論、ALM方程式の説明を行い、2クラスター間
力がどのように必要とされるかが示され、p-3He系に対して適用した結果偏極によって断
面積が最大2倍程度増大する可能性があることが示した。基本的にこの方法により軽い核
のデータを提供することが可能であり、今後順次計算していく予定であるとの意思表明が
された。軽い核のデータは核データの標準的な計算方法である統計模型が適用できない領
域であり、諸外国でも現象論的なパラメトリゼーションやほぼそれと等価のR-行列の方法
などが用いられているのみであり、Faddeev、及び Faddeev-Yakubovsky法による核データ
の整備は非常にユニークで今後長年に亘り他の追随を許さない成果となり得ることが認識
された。
2-3. ビッグバン元素合成・宇宙論の立場から見た軽核のデータ
折戸講師がパワーポイントを用いてビッグバン元素合成・宇宙論研究の現状と、関連す
る軽核データの重要性について説明した。標準的なビッグバン元素合成の計算は、宇宙背
景輻射に対するWMAPの結果を説明できず、現在ビッグバン元素合成の理論は破綻をきたし
ている状況にある。その最大の原因が核データの不備であり、早急に軽核の反応率を5%以
内の精度で決定して欲しいとの要求があった。また、7Liを生成する反応として、t+4He→
7Li反応よりは、3He+4He→7Be→7Li反応が重要であり、またロシアの研究者からはe+p+d→
3He+e、e+3He+4He→7Be+e →7Li+eという反応が重要であるとの指摘があるので、小数多
体系理論を用いて検討して欲しいとの要請があった。
3. 進捗状況報告
3-1. 原子質量公式関連の進捗状況(小浦講師)
小浦講師が、OHPと資料COSMO-03-1に基づいて原子質量公式関連の進捗状況の説明を行
った。今回は自発核分裂障壁の推定に基づくβ遅延核分裂と中性子入射核分裂の可能性、
超重核領域の全半減期及び崩壊様式の推定を行った。β遅延核分裂についてはr-process
領域で起こる可能性はあるものの、確率的にはβ崩壊強度関数を用いて推定するとかなり
小さくなるが、ポストr-processとしては重要であること、中性子入射核分裂については
KUTY質量公式を用いるとr-processには関与しないことが示された。ただしr-processパス
は質量公式に依存するものであり、GorielyのETFSIではr-processに関与する(A&A 346,
798(1999))。超重核に関しては、A=298(Z=114)に至る親核がr-processで生成されたとし
てもβ崩壊の途中で遭遇する298Hs(全半減期が10-10s)付近でほとんど核分裂を起こして
しまうことが示された。さらにはどうにかβ安定な超重核にたどりついたとしてもその半
減期はおよそ10日〜1年のオーダー(α崩壊優勢)であり、隕石中にこれらの超重核を見
いだすことは不可能であろうとの結論が示された。
3-2. 天体核断面積計算の為のコードシステム構築進捗状況(千葉委員)
千葉委員が資料COSMO-03-3に基づいて河野氏の行っている計算コードシステムの整備状
況とIgnatyuk型の準位密度パラメータ推定の現状について説明した。RIPL-2からパラメー
タを呼び出すPerlプログラムがほぼ完成し、計算の自動化が順調に進捗していることと、
KUTY質量公式の殻補正エネルギーと対エネルギーを用いてIgnatyuk型の準位密度パラメー
タを質量のなめらかな関数として導出できたことが説明された。
3-3. 原研関連の報告(千葉委員)
千葉委員が資料COSMO-03-2に基づいて原研関連の進捗状況について説明した。データベ
ース関連ではJENDL-3.3からのMaxwell平均断面積の作成、数種類の質量表の整備、β崩壊
定数の整備(実験値とGross Theoryによる計算値)等、ネットワークコード関連ではコー
ドの改良と、それを用いて特手の軽い核の質量データに対するr-process元素分布の極端
な感度を発見したこと等が説明された。また今回説明のあった東京理科大グループとの共
同研究がスタートし、当初めどの立っていなかった軽い核のデータ整備に強力な援軍を得
たことが報告された。